呼吸が早い・あらい場合にも様々な原因が考えられます。
熱があったり、痛みがあったり・・・
大型犬では胃拡張・胃捻転でも呼吸が早くなります。
持病として心臓病がある場合には
肺水腫や胸水
を真っ先に考える必要があります。
では、始めましょう。
もくじ
肺水腫と胸水
肺水腫も胸水もどちらも
- 呼吸促迫(呼吸がはやい・あらい)
- 呼吸困難
の苦しそうな症状がみられます。
と聞くことがありますが、この表現だと肺水腫?胸水?どっちだろう?となります。
下の図を見て下さい。
胸は肋骨・肋間筋、横隔膜で覆われた箱のようになっていて、その中に心臓、肺・気管・気管支、食道などが入っています。
肺水腫(重度)では肺に水が溜まった状態です。
一方で胸水は、箱の中に水が入っている状態です。いっぱい息を吸おうと思っても水があるために肺を膨らますことができません。
治療にも違いがあります。肺水腫では利尿剤を使用しますが、胸水では胸に針を刺して直接的に水を抜くことをまず行います。
肺水腫の原因は?
肺水腫は大きく分けて2つの原因があります。
1つは心臓に問題があって起こる心原性肺水腫。
もう1つは心臓以外の理由で起こる非心原性肺水腫です。
心原性肺水腫での心臓の問題とは心臓の左側、つまり左心室機能が低下して左心房圧が上昇する左心不全に起因します。
犬の肺水腫では僧帽弁閉鎖不全症が大部分を占めます。
猫では肥大型心筋症・拘束型心筋症で肺水腫を見ることが多いですが、猫での左心不全では胸水になることも多く肺水腫と胸水を同時に起こしていることもあります。
非心原性肺水腫は、
肺血管の透過性亢進により血管内から肺胞へ水分が出ていってしまうことが原因です。
血管にも小さな穴があってそこから水分が血管の外に出ることがあります。
膵炎、肺炎、てんかん、気道閉塞など様々な疾患で透過性が亢進して肺水腫を引き起こします。
心原性肺水腫
心臓と肺の血液の流れ
まずは心臓と肺を流れる血液についてみていきましょう。
血液は栄養や赤血球を体全体に運ぶ役割を持っています。
肺を中心に考えると、血液の中でも赤血球は肺から酸素を各臓器に運んでその代わりに二酸化炭素を肺に持って帰ります。
1.二酸化炭素を持った赤血球は全身の静脈から心臓の右心房に集まります。
2.右心房に集まった赤血球は三尖弁を通って右心室に運ばれます。
3.右心室の赤血球は肺動脈弁を通って、肺動脈、そして肺へと運ばれます。
4.肺胞血管では赤血球が1個やっと通るくらいの(赤血球も少し変形しながら通る)細い血管を通ります。そこで壁とピッタリくっつくことで二酸化炭素を肺胞へ拡散し酸素を受け取ります。
5.酸素を受け取った赤血球は肺静脈を通って左心房に集まります。
6.左心房に集まった赤血球は僧帽弁を通って左心室に運ばれます。
7.左心室の赤血球は大動脈弁を通って、大動脈、全身へと運ばれます。
このように心臓と肺を流れる血液は一方通行で流れています。逆流をすることを防ぐために心臓には4つの逆流防止弁が付いていて、三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁と名前がついています。
左心不全による心原性肺水腫
犬では逆流防止弁の1つ『僧帽弁』装置が年齢とともに傷んで、機能が落ちます。
すると逆流を止められなくなり本来ならば左心房→左心室の一方通行なのに、左心房⇄左心室と逆流が起こります。
左心房からすると送り出したはずの血液が戻ってくるし、さらには肺からも血液が流れてくる。
前からも後ろからも押される状態です。
猫では肥大型心筋症・拘束型心筋症と呼ばれる病気が非常に多いです。
どちらの病気でも左心室の筋肉が硬く広がりにくくなっています。
硬く広がりにくくなっているということは、左心房からの血液を受け止めきれない状態です。
左心房からすると血液を送り出したくても押し込めないし、肺からも血液が流れて来て、やはり前からも後ろからも押される状態です。
犬の僧帽弁閉鎖不全症でも、猫の肥大型心筋症・拘束型心筋症でも
左心房圧が上昇して左心房が拡大します。
左心房と肺静脈の間には逆流防止弁はありません。
つまり、左心房圧が上昇するとそのまま
肺静脈圧も上昇して、肺胞にある毛細血管でも圧が上昇します。
肺毛細血管圧が上昇すると、血管から水分が漏れるようになります。
肺胞間質の水分が増えたり(肺胞壁の浮腫)、肺胞内が水で満たされることでガス交換(二酸化炭素と酸素の交換)ができなくなります。これが肺水腫です。
一時的な軽度の圧力上昇であれば、肺胞間質に水分が増える位でリンパ管へ流れていきます。
この段階(間質に水分が増える)でも普段よりも呼吸数が増える症状があります。
圧力上昇が重度であれば、間質だけでなく肺胞へも水分が溢れるためにガス交換ができなくなります。
慢性的な圧力上昇では肺胞間質のリンパ管の水分吸収能力が高まるようになります。
つまり、急激な圧力上昇の方が肺水腫になることがあります。
これは例えば、何かのきっかけで興奮して僧帽弁を支える腱索という糸が切れてしまったり、塩分濃度の強い食品(ソーセージ、はんぺんなど)を食べて急激に血圧が上がってしまったり、重度の心臓病で薬が必要だけど飲めなかったりした場合に起こり得ます。
肺水腫の症状
肺水腫は肺胞間質の水分が増えたり(肺胞壁の浮腫)、肺胞内が水で満たされることでガス交換(二酸化炭素と酸素の交換)ができなくなります。
症状としては
- 浅速呼吸(呼吸がはやい)
- 努力性呼吸(呼吸があらい)
肺水腫が重度になると、横になったり伏せるのも苦しくなるために座ったままあらい呼吸をしています。この時、口を開けてハァハァしていますが、舌はチアノーゼ(紫がかった色)をしています。
さらに進行すると、首を伸ばすように呼吸をしたり、鼻の穴を広げて呼吸するようになります。
咳と一緒に薄ピンク色の泡沫を出すこともあります(喀血)。
僧帽弁閉鎖不全症、心筋症の場合は特に注意‼︎
犬では『僧帽弁閉鎖不全症』
猫では『肥大型心筋症、拘束型心筋症』
など肺水腫の原因になるような疾患を診断され治療している場合に、このような呼吸困難の症状がある場合はすぐに病院に連絡してください。
診断
持病があって、呼吸困難の症状が見られた場合はまず肺水腫を疑います。
重度の症状がある場合は、診断よりも先に酸素室に入ってもらい酸素吸入を行います。
身体検査
呼吸困難であれば、まずは呼吸数を数えます。
歯肉の色、舌の色、湿潤具合をチェックします。
続いて心臓の聴診、肺の聴診を行います。
犬の肺水腫の原因はほとんどの場合『僧帽弁閉鎖不全症』であるため、心雑音が聴取されます。
肺の聴診では捻髪音(Fine crackles)や水泡音(Coarse crackles)と呼ばれる音が聞こえます。
画像診断
症状が重度であれば、無理な検査をせずに治療からスタートしますが、
余裕があるようならば胸部レントゲン写真を撮ります。撮影の際も伏せの状態で行い、余裕があれば横からの撮影も行います。
最近では、超音波検査を用いて肺エコー検査を行うことで肺水腫を診断することもあります。
治療
まずは酸素吸入
何度も言いますが、肺水腫は緊急疾患です。
肺胞でのガス交換がうまくいってないので、高濃度の酸素を吸わせて体の低酸素状態を改善する必要があります。
そのために酸素吸入がもっとも大事です。
もしも動物が興奮状態であった場合は、それだけで酸素要求量が増えてしまうために興奮を抑えるために鎮静剤などが必要なこともあります。ただし、多くの肺水腫では心臓に問題を抱えているために鎮静剤を使用する際も慎重に使用します。
心原性肺水腫の場合
何と言っても利尿剤
心原性肺水腫の場合、まず必要になるのが利尿剤です。
利尿剤を使うことで血液量を減らし、心臓の負荷を軽減させます。
心臓の負荷を軽減(左心房圧を下げる)すれば、肺静脈圧が下がり、肺胞間質・肺胞からの水分再吸収がしやすくなり肺水腫が軽減します。
ただし、使用する際には注意が必要です。
どこに注意が必要かと言うと、腎臓です。
僧帽弁閉鎖不全症でも、肥大型心筋症・拘束型心筋症でも、多くの動物は高齢になってきています。そのため、腎機能低下を起こしていることが多いです。また、『心腎連関』といって、心臓と腎臓は密に関係しているために、心臓の調子が悪くなると腎臓の機能も悪くなることが知られています。(逆に腎臓の調子が悪いと心臓も悪くなる)
利尿剤は腎臓へ作用して尿量を増やす薬です。
腎機能が低下している場合は、利尿剤の使用でさらなる腎機能低下を起こすことがあるので注意が必要です。
強心剤
心原性肺水腫の場合は、左心機能が低下していることから引き起こされます。
そのために強心剤を使用して左心機能を補助します。
非心原性肺水腫の場合
やはり酸素吸入が必要になります。
さらに、利尿剤を使用します。
同時に原因となっている基礎疾患に対しての治療が必要になります。
家でできること
1番大事なポイントは呼吸数チェック‼️
特に僧帽弁閉鎖不全症が原因で肺水腫になるような場合は、
- 心臓(左心房)が大きくなって気管支を刺激している
- 気管・気管支軟化症になっている
ことが多く、このために咳が出ます。
肺水腫の症状は呼吸困難(呼吸が早い・あらい)です。
健康な犬の安静時呼吸数(寝ている際の呼吸)は
- 小型犬では1分間に20回位
- 大型犬では1分間に15回位
30回を超えてきた場合は『何か変だな』と考えた方がいいサインです。
呼吸が1分間に40回を超えている場合は肺水腫が起こっている可能性があります。
心臓病の持病がある猫の場合、
呼吸が1分間で30回を超えたら、胸水・肺水腫を疑う‼️
すでに心臓病と診断されている場合
重症度によって違いますが、特に多くの薬を必要としている動物では
ドキドキ・興奮することは避ける
ことが重要です。
薬が飲めない場合は薬に優先順位をつけて飲んでもらうこともあります。
『はぁはぁしている/呼吸があらい 犬の心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)・診断、治療編』
に注意点を書いてありますのでそちらもご覧ください。
- 肺水腫は肺に水が溜まって苦しくなる
- 症状が呼吸困難(呼吸が早い、あらい)
- 犬の僧帽弁閉鎖不全症では特に注意!!
- 猫の肥大型心筋症、拘束型心筋症では肺水腫と胸水が併発していることも
- 犬では寝ている際の呼吸が1分間に40回は赤信号
- 猫では寝ている際の呼吸が1分間に30回は赤信号